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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(れ)1486号 判決

本籍

山口県宇部市大字沖字宇部五四〇番地

住居

同県同市東区岬駅通二丁目

澱粉製造業

藤本菊太郎

明治三五年七月一日生

本籍

広島市中島本町九〇番地

住居

山口県宇部市藤山区居能町一三七区の六

宇部製薬株式会社工場内

醤油製造業

玉井芳太郎

明治二〇年一二月二九日生

右の者等に対する有毒飲食物等取締令違反各被告事件について、昭和二五年一二月二八日広島高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人藤本菊太郎の原審弁護人中川鼎、玉井芳太郎並びにその原審弁護人神田静雄から各上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人玉井芳太郎弁護人神田静雄の上告趣意第一点について。

論旨は原判決が採用しない証拠の部分をとつて原判決の事実認定を非難するものであつて採用に値しない。

同第二点について。

たとい被告人自ら試飲し又譲受人も試飲したとしても譲受人から更に他に売却譲渡されることを知つていた本件において、本件アルコールの出所は不明でないにしても徳山海軍燃料廠といつた出所が出所であつてそこから出たドラム缶に入れてあつた燃料用アルコールを飲用に供する目的で譲渡すとすれば原判決が判示する程度の注意義務は毫も過重でないことは当裁判所の判例の趣旨に徴して明であるから論旨は理由がない。(昭和二三年(れ)第一八二号同二四年四月二三日第二小法廷判決参照)

同第三点について。

原判決は見本による売買であるとは認定しいないこと原判文で明白である。されば独自の前提に立つ本論旨は採用に値しない。

同第四点について。

所論物品検査回答書中のアルコールが被告人の販売したアルコールと同一であることは原判決挙示の原審相被告人文屋藤雄の原審における供述と司法警察官作成の昭和二二年六月三日附領置目録によつて明である。論旨は理由がない。

被告人藤本菊太郎弁護人中川鼎の上告趣意第一点について。

その第一、被告人藤本の行為は売買の仲介をしたので幇助の責任を負うべきであるという所論は原判決の認定をしないところであつて原判決の事実誤認の主張に過ぎない。その第二、論旨は又被告人藤本は相被告人玉井に対し本件アルコールが未検査である旨を告げて松原薬局で検査を受けるように注意したのが真相であるから被告人藤本には過失はないと主張するのであるが、右の事実は原判決の認定をしないところであるばかりでなく、仮りに譲受人玉井に所論のように注意したとしても被告人が未検査のまま譲渡したことについて判示の注意義務を怠つた責任を免れることはできないこと明である。論旨は何れも採用できない。

同第二点について。

原判決に対する量刑不当の主張は上告適法の理由ではない。

よつて刑訴施行法二条旧刑訴法四四六条により主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

検察官 安平政吉関与

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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